全社員が経営に関わる「全員経営」の共創

株式会社NTMC

<東日本営業所>〒140-0001 東京都品川区北品川1-13-3 八ツ山 三和ハウス2A  
<西日本営業所>〒520-0054 滋賀県大津市逢坂1丁目1-1 プエルタ大津202号

松栄軒が実践するボトムアップ型原価管理CCPフレームワーク

株式会社NTMC 西日本コンサルティング部  
松浦智和 tomokazu-matsuura@ntm-c.co.jp

企業名 株式会社 松栄軒
住所  鹿児島県出水市上鯖渕532-5
業種  弁当の製造販売

 コンサルタントの松浦です。

 弊社が全員経営導入を支援している株式会社松栄軒は、95年にわたりお客様に愛される駅弁を提供し続けています。しかし、激しい競争環境と原材料の高騰が続く昨今において、「お客様の満足」と「企業の安定」を両立させることは、待ったなしの経営課題です。

高品質な食材を用いながら、適正な価格を維持し続ける。この使命を果たすための生命線こそが、原価の安定に他なりません。

「原価管理」と聞くと、多くの経営者の方は、社長や管理部門によるトップダウンの指示や数字合わせを想像されるかもしれません。しかし、松栄軒が目指すのは「全員経営」の理念に基づき、現場の社員一人ひとりの意識と行動をコストに結びつけるボトムアップ型の原価管理です。

その具体的な仕組みとして「原価管理CCP(重要管理点)フレームワーク」を導入しました。

 

理念を行動に変える「CCPフレームワーク」

 CCPフレームワークとは、私たちの経営理念を具体的な行動に落とし込み、持続的な改善を実現するための仕組みです。理念や目標といった抽象的な概念を、以下の流れで実務と結びつけます。

1.  現場の行動(インプット):原価管理行動をCCP(重要管理点)として設定

2.  データ化(プロセス):CCPに基づいた行動を正確に計測・記録

3.  経営判断(アウトプット):現場から上がってきた「生きたデータ」を基に、経営層が迅速に意思決定

 このフレームワークが機能するかどうかは、現場の「正直な行動」と「真摯な計測」にかかっています。

 今回、私たちはこのフレームワークの中でも、特に「消費」と「廃棄」のプロセスに焦点を当て、計測を実施しました。これは食材の無駄をなくし、設計通りの品質を確保するための最も基本的ながら最も重要な管理点です。

原価管理CCPフレームワーク

原価管理CCPフレームワーク

実践1:駅弁20種類の盛付量計測

 最初に実施したのは、弊社の主力商品である駅弁20種類を対象とした、食材ごとの盛付量の再計測です。

 松栄軒では、お客様に常に期待通りの品質とボリュームを提供するため、全製品に厳密なレシピと盛付量(グラム単位)を定めています。しかし、日々繰り返される製造工程の中で、この「設計値」がどこまで現場で遵守されているのか、定量的な確証を得る必要があります。

秤の前に立つ職人たちの真剣な眼差し

 当日、製造現場には少し緊張感が漂っていました。目の前に置かれた秤(はかり)を前に、みなさんはいつも行っている盛付作業を、一瞬の気の緩みもなく行います。彼らが手に取る食材、盛り付ける分量が、その都度、厳密に計測されていきました。

 計測の結果、駅弁20種類の食材ごとの盛付量には、設計値から大幅なブレが見られませんでした。平均して、設計通りのグラム数で盛付が行われていました。

 この結果は、私たちの「全員経営」が機能していることを証明するものでした。これは単なる「現場が優秀だった」というだけではなく、現場の社員一人ひとりが、「秤」を道具としてではなく、「お客様の期待に応え、自社の利益を守るためのツール」として捉えているということです。

開始前朝礼の様子
製造ラインのみなさん

経営者意識が浸透した現場の力

 盛付量の遵守は、単なる品質管理ではなく、厳密な原価管理そのものです。もし盛付量が設計値からわずかでもオーバーしていれば、そのわずかな差が、一日、一週間、一ヶ月というスパンで積み重なり、企業の利益を圧迫します。

 現場の社員たちが、常に設計値の遵守を心がけていること。これは、まさしく「設計通りに作ることがお客様の満足につながり、ひいては自社の利益に結び付いている」という、経営者意識が深く浸透していることの証拠です。

【現場の声】全員経営の意識の高まり

 計測を終えた後、現場担当者から寄せられたコメントは、この経営意識の浸透を裏付けています。

(現場の声)
 「弁当製造現場のみなさんからは、設計通りに作ることでお客様に満足頂くことが自社の利益に結び付いているとの経営者意識が浸透しているように感じました。今回の計測は、全員経営の浸透が進みつつある証拠だと確信しています。」

 ボトムアップ経営を志向する経営者にとって、社員が自律的にコスト意識を持ち、主体的に行動しているというこの事実は、何よりも強力な成功事例になるはずです。フレームワークは、現場の主体性を引き出すための「道筋」なのです。

実践2:仕込み済み肉の歩留まり率再確認

 盛付量の確認で「全員経営」の成果を確認できた一方で、私たちは、原価管理のさらなる精度向上のために、もう一つの重要な「消費」のチェックを行いました。それが、仕込み済みの肉5種類を対象とした歩留まり率の再確認です。

 この場合の歩留まり率とは、仕込み後の食材を加熱処理する過程で発生するロス率を指し、この数値が正確でなければ、理論上の原価計算も、正確な発注計画も成り立ちません。

 

誤差の発見を「前向きな発見」と捉える

 計測の結果、現在のシステムに設定されている歩留まり率よりも、わずかに低い数値が出ました。つまり、システムが「これだけの製品ができるはずだ」と計算していたよりも、実際にはロスが多く、出来上がりが少なくなってしまうリスクがあるということです。

 この事実は、一見すると「課題」に見えます。しかし、私たちはこれを「真実に目を向け、即時対応するための前向きな発見」と捉えています。なぜなら、この事実を見て見ぬふりをしたりせず、CCPフレームワークを通じて正直にデータとして浮き彫りにできたことこそ、フレームワークが機能している証拠だからです。

 このままシステム設定値を放置すれば、前日準備の段階で出庫するパック数に不足が生じるリスクがあります。これは、現場のオペレーションに混乱を招き、お客様への提供機会を損失する経営リスクに直結します。

駅弁1
駅弁2

仕組みと現場を連動させる即時アクション

 私たちは、この正直な計測結果を基に、以下の即時アクションを決定しました。

1.  システム設定値の更新
 
現場の「生きたデータ」に基づき、原価システムに設定されている歩留まり率を、速やかに現実に即した値に更新

2.  原価管理の精度向上
 
理論原価計算の正確性が増し、より精緻な発注計画が可能

3.  現場オペレーションの改善
 
適切な歩留まり率で原材料を出庫することで、現場の「材料が足りない」という混乱や、無駄な手戻りを削減

 正直に事実を認め、すぐに対応するというこのプロセスこそが、松栄軒の原価管理の真髄であり、ボトムアップ経営の推進力です。

次なるアクション:CCP「記録・起票」のチェック

 今回の「消費・廃棄」のチェックを通じて、私たちは「正直なデータ」が経営にもたらす価値を再確認しました。そして、次は「記録・起票」のチェックです。

 現場でどれだけ正確な計測が行われても、そのデータが正確に伝票に起票され、システムに入力されなければ、経営判断の精度は落ちてしまいます。正しい伝票処理がなされていなければ、月末の棚卸金額と伝票上の金額が合わなくなるという、基本的な原価管理の課題に直面するからです。

 私たちは現在、この入出庫伝票が正確に書かれているかをチェックするための新たな仕組みを設計しました。「現場の主体的行動」というアナログな部分を「正確な記録と仕組み」というデジタルな仕組みで裏打ちする、このハイブリッドなアプローチで原価管理のCCPフレームワークを一層強固なものにしていきます。

 この新たな仕組みの設計と運用の様子については、また後日ブログでお知らせする予定です。ご期待ください。

さいごに

 今回の原価管理への取り組みは、単なるコスト削減運動ではありません。

 それは、「現場の正直なデータと行動」を経営に活かす全員経営の具体的なプロセスです。社員一人ひとりが経営者意識を持ち、フレームワークを通じて自律的に行動することで、企業全体が改善のサイクルを回し始めるのです。

 この地道な計測と改善の取り組みの最終的な目的は、一つに集約されます。それは、お客様へ安定した品質と適正な価格で商品の提供することを通じて、全員で松栄軒を成長させることです。


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 代表略歴・ごあいさつ

略歴
  • 1967年 京都セラミック株式会社(現・京セラ株式会社)入社
  • 1995年 同社代表取締役専務
    京セラコミュニケーションシステム株式会社設立 代表取締役社長
  • 2006年 京セラ株式会社代表取締役副会長
  • 2010年 日本航空株式会社 副社長執行役員
  • 2015年 株式会社NTMC代表取締役社長 

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