こちらは2024年の最初のコラムとなりますが、今年もNTMCをよろしくお願いします。
今年は、元旦に発生した能登半島地震や2日の羽田空港での衝突事故など年初に暗いニュースが続きましたが、どのような1年になるでしょうか。日本企業はどのように変わっていくことになるでしょうか。
ところで、昨年12月16日(土)の日本経済新聞には「企業経営 真の変革とは」というタイトルの記事が掲載され、「日本企業の強みだった現場力すら失速した」という内容が紹介されていました。その記事には「コロナ禍を経て企業経営は大きな変革を迫られていますが、過去10年のガバナンス改革が形だけにとどまった」との指摘がありました。
また、記事の中で京都先端科学大学教授の名和高司氏は、現場の「たくみ」をセンサーやAIを用いて「しくみ」に変え、経営者が高い志を掲げて事業の新陳代謝に挑む道を説いていました。
名和氏が説いた現場のたくみとは、まさに現場力であり、これが弱ければセンサーやAIを用いた「しくみ」を構築しても上手くいきません。つまり、組織内の現場で働く人たちの「自分たちの会社を少しでも良くしよう」という意識が低く、毎日の業務を惰性的に担当している限り、立派なツールやシステムを活用しても、そこから期待できる効果は限定されたものになってしまいます。
そこで、「失速した」と言われている日本企業の現場力を強くするにはどうすべきでしょうか。どうしたら、現場の力を最大限に発揮することができるでしょうか。今回はこれについて考えてみましょう。
私たちは、その解決策について、現場の人たちが知恵を絞り出し、彼らが自らの力で結果を数字として出す「しくみ」にあると考えています。その「しくみ」とは、名高氏が新聞記事の中で指摘されたセンサーやAIを用いた「しくみ」というよりも、むしろそれを導入する以前の段階に求められるものです。つまり、現場がセンサーやAIといったツールを上手に活用するためには、まずそのための土台(ベース)を築く必要があるのです。
企業経営においては、経営者が会社の方向性などを決めますが、実際に手足を動かすのは現場の人たちです。そこで、私たちNTMCでは、現場の人たちに対して「自分たちの会社を少しでも良くしよう」「利益を出せるようにしよう」というモチベーションを高めてもらうことを目的に「採算表」という家計簿のように誰にでも分かり易いツールを活用する経営手法を提唱しています。
その採算表の活用では「一人時付加価値」という指標が大きな役割を担います。この指標ではチームの一カ月間の成果を一時間当たりの付加価値として金額で示すことができます。これは団体スポーツの試合における点数に当たるものです。団体スポーツでは点数を良くしようとチームメンバーが協力しあいます。同様に、企業の現場においても、それぞれのチームが一体となって「一人時付加価値」を良くしようと協力しあう結果、一体感が高まるのです。
また、「一人時付加価値」を使えば、同じ社内において、製造、営業、管理、配送などの部門(チーム)がそれぞれ異なる業務を担っているにも関わらず、同じ土俵で成果を比較することができるようになります。
多くの企業では、KPIなどの指標を活用しながら社内における活動の成果を管理しています。この場合、営業部門は売上高や受注件数を高めようとする一方、生産部門はコスト減や生産性の向上を目指すことが一般的です。これ自体は何ら問題ないですが、営業の人たちは「受注件数をより多く獲得すれば良い」と考える一方、「それによって本当に利益が出ているのか」という視点が欠けてしまいがちです。
また、それぞれの部門が独自のモノサシを使って成果を測っている限り、社内における部門(チーム)間の比較が難しくなります。さらに、最終的に顧客に製品やサービスの販売を担当する営業だけが稼いでいる感覚になりがちですが、実際には生産部門も稼いでいるのです。こういう点を「見える化」するためにも「採算表」の活用は大いに役立ちます。
なお、「採算表」を活用するにあたり、社内取引などのルールを明確にしなければなりません。スポーツをはじめ勝負の世界ではどこにもルールが存在します。ビジネスの世界でも同様に、ルールに則ってゲーム(仕事)を行うべきです。
さらに、冒頭にて「経営者が高い志を掲げて事業の新陳代謝に挑む」ことを紹介しましたが、経営者の役割は、ちゃんとした考え方を社員に教えることです。数字を良くしたいがために、ごまかそうとしたり、人を騙すような社員がいたら困るのです。ルールを守ることなく、社員が自分のルールを持ち出して勝手にゲーム(仕事)をする状態では良くありません。
だから「採算表」の活用にもルールがあります。その一つは前述の「一人時付加価値」という共通の指標を用いることです。繰り返しになりますが、社内の各チームが「一人時付加価値」の数字を少しでも良くしようとする結果、各チームが良い意味でお互いを刺激しあい、競争することになります。そのようなゲーム(仕事)を通じて通じて人材が育成されるのです。
私たちは、このような「しくみ」を企業に導入することで、現場の力を最大限に発揮することができると考えており、これまで多くの中小企業でも実績を上げてきました。
このように現場が最大限に力を発揮できるような「しくみ」を構築することで、現場力が高まります。その結果として、センサーやAIなどのテクノロジーを用いた「しくみ」の導入・活用も上手く機能するようになるのです。
2024年は、日本企業の現場力が強くなる1年になることを願うばかりです。
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