以前のコラムでは、管理会計を有効に活用することで、これまで見えなかった経営情報が得られるようになることをお伝えしました。
しかし、一般的な管理会計には少し問題点があると考えています。その理由の一つはあくまでマネジメント層向けの情報収集や意思決定に用いられものであり、一般社員の関わりが限定的であるからです。一方、私たちNTMCが提唱する21世紀型管理会計である全員経営は、マネジメント層向けに用いられる従来型の管理会計とは異なり、「一般社員にこそ利用してもらう!」という考え方を持っています。
全員経営で重要な役割を担う「採算表」には、さまざまな活用方法がありますが、代表的なのは全社の経営会議や各部門会議における活用です。このコラムでは、何回かに分けて採算表の活用についてお伝えしていく予定ですが、今回は「採算表の活用1:経営会議で成功するためのポイント」というテーマで、なぜ経営会議の場で採算表の活用が重要な役割を担うのかについてお伝えします。
まず、採算表を活用するかしないかに関わらず、成功する経営会議の運営に関する一般的なポイントを手短に3つお伝えします。これらは基礎的なことかもしれませんが、非常に重要なポイントです。
当たり前のことかと思われますが、経営会議を成功させるためには、会議の目的やアジェンダを明確に定めることが重要です。ここでは「何を話し合うのか」「何を決定するのか」ということを事前に共有することです。目的やアジェンダを明確にすることで、会議に参加するメンバーが準備をして臨むことができます。会議の時間を効率的に使うことができます。
会議に参加するメンバーとの間において、会議の前に情報を共有するための仕組みが必要です。必要な情報を参加者全員と共有することで、議論が円滑に進むようになります。また、議論を促進するために、意見交換の場を設け、進行役を任命して会議の進行をスムーズにすることです。
会議で決定したことを実行に移すためにはアクションプランを策定する必要があります。アクションプランでは、誰が・何を・いつまでに担当するかを明確にした上で記載します。また、アクションプランのフォローアップを行うことで、計画通りに進んでいるかを確認し、問題があれば早期に対応するようにします。アクションプランの進捗状況を報告する慣例を作ることは、フォローアップを効果的に行うために重要なことです。
経営会議の運営に関する3つのポイントを指摘しましたが、採算表の活用は経営会議の場において大きな威力を発揮します。
その理由は、採算表を使用することで、異なる部門間での比較が容易になるからです。多くの企業で行われる経営会議では、各部門がそれぞれ独自の目標を設定しているため、それらを同じ基準で比較することが難しくなります。例えば、営業部門ではリード(見込み客)獲得数や契約数を報告し、製造部門では生産高などを報告することが一般的です。このような状況下では、各部門が自分たちの成果について都合の良いように報告しあうことになります。
同様に、各部門にてKPIを明確にし、それぞれに対する目標値を掲げている場合、社員はその数値を高めようと努力することでしょう。ところが、その努力が必ずしも会社の利益を上げることにつながらない可能性があります。その最大の理由は、各部門において自分たちの利益が見えていないからです。良かれと思って実行していることが、必ずしも利益の向上に結びつかないかもしれないのです。
全員経営で活用する採算表を使うことで、異なる部門同士を共通の基準に基づいて比較することができるようになります。営業や生産に関わらず、どの部門においても「一人時付加価値」という指標を用い、「同じ土俵」で異なる部門間における利益の比較が可能になります。これは、異なる部門同士において、会社全体の利益を最大化するために必要な情報を提供・共有することになります。
このように、採算表を使用することで、各部門の目標と実績を同じ指標で(同じ土俵で)比較することが可能になります。これによって、異なる部門間での情報共有や協力体制が促進され、会社全体の利益を向上させるために必要な戦略的な意思決定がより容易に行われます。
また、社員間における競争心が刺激され、各部門がより効率的な取り組みを行うようになります。それぞれが異なる指標を用いて報告しあっている時と異なり、「一人時付加価値」という同じ指標を用いるからこそ部門間の比較が容易になり、良い意味で競い合うことが可能になります。その結果、会社全体の業績の向上が期待できるのです。
以上の通り、一般的な経営会議運営のポイントは、採算表を活用する場合においても同じです。ただし、採算表を活用することで、各チームにおいて利益の見える化が進み、社内の複数の部門を同じ土俵で比較することが可能になり、社員が良い意味で競い合うようになります。その結果、会社全体の利益を最大化するという視点において大きな威力を発揮することが期待できます。
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