コンサルタントの松浦です。
先日、北里研究所からのご依頼を受け、当社代表の森田直行が「JAL再建に学ぶ全員経営の実践」と題した講演を行いました。
「社員が経営者目線を持ってくれない」「現場のリーダーが指示待ちで自走しない」—これは、企業規模の大小を問わず、多くの経営者が抱える共通の悩みです。しかし、どれほど巨大で硬直化した組織であっても、リーダーの意識と行動は必ず変えられます。日本企業の歴史に残るJAL再建の現場で、いかにしてリーダー層が覚醒していったのか。その具体的なプロセスと変革の全貌をコンサルタントの視点からお伝えします。
2010年1月、日本航空(JAL)は事業会社として日本史上最大となる負債総額2兆3,000億円超を抱え、会社更生法の適用を申請しました。政府からの強い要請を受け、京セラ創業者の稲盛和夫氏が会長に就任。当時、稲盛氏とともに京セラでアメーバ経営を作り上げてきた森田も、わずか2名の参謀のひとりとしてJALに赴任しました。
当時のJALの現場は、「安全が利益より優先する」「赤字路線でも飛ばすのが公共交通機関の使命」という考え方が根強く、どこか「最後は国がなんとかしてくれる」という甘えが漂っていました。経営に必要な数字が現場で見えておらず、経営幹部の中に真の利益責任を負うリーダーが存在しなかったのです。
この危機的状況を打破するため、最初に着手したのが「フィロソフィによる幹部・社員の意識改革」でした。
稲盛氏は就任後、役員や本部長、部長層を集め、十数回に及ぶ講話を自ら実施しました。「正しく純粋で強烈な思いとひたむきな努力が事業の成功を約束する」といった経営理念や働く姿勢を、妥協なく語りかけたのです。さらに多忙を極める合間を縫って羽田や成田の現場へ足を運び、「航空事業は究極のサービス業である」と現場社員へ直接語りかけ続けました。
やがて、幹部たちの間から「これまでのJALの理念では駄目だ、自分たちの手で作り直そう」という自発的な動きが生まれます。全社から幹部社員を選出し、議論を重ねて誕生したのが「JALフィロソフィ」でした。全社員に手帳が配布され、毎日の朝礼での輪読や年4回の勉強会を通じて、理念は単なる「お題目」から「日々の判断基準」へと浸透していきました。
意識が変わった現場リーダーたちは、驚くべき自発的なアクションを起こし始めます。 予約状況を見ながら運航直前に最適なサイズの機材へ柔軟に変更して搭乗率を高める、整備や空港の現場が海外航空会社へ自ら営業をかけて受注を獲得する、東日本大震災の際には若手リーダーが自発判断で迅速に支援機を飛ばす—。かつて「指示待ち」だったリーダー層が、自ら利益を生み出し、会社を支える「当事者」へと劇的に変貌したのです。
しかし、なぜ彼らはここまで熱狂し、当事者意識を持てるようになったのでしょうか? 熱意や心構えといった「精神論」だけでは、人は持続的に動きません。彼らの意識改革を本物に引き上げた背景には、リーダーたちの努力と成果を可視化し、挑戦を後押しする「部門別採算」という強力な仕組みが存在していたのです。
リーダーたちの心構え(フィロソフィ)が変わったとしても、自分たちの頑張りがどう事業成果に結びついているのかが見えなければ、情熱は長続きしません。JALのリーダー層が主体的かつ精力的に動き出した真の原因こそ、「部門別採算制度」の構築にありました。
それまでのJALは、本社が作った予算を実行することが各部門の仕事であり、現場には売上や利益に対する関心がほとんどありませんでした。決算数値が出るのも2ヶ月遅れで、自部門が勝っているのか負けているのかすら分からない状態だったのです。
そこで森田たちは、組織の役割と責任をゼロから見直しました。新たに「路線統括本部」を設置して収入を一括管理させると同時に、運航・客室・空港・整備といった従来はコストセンターだった現場部門に対しても「協力対価」という収入概念を導入。2万5,000人以上の社員が所属する現場を、自ら利益を生み出せる採算部門へと変革したのです。
さらに、ITシステムを構築し、「1便ごとの収支を翌日に算出する」仕組みを稼働させました。
この「数字の可視化」が、現場リーダーたちの行動を激変させました。JALの元会長である大西賢氏は、当時の驚きを次のように語っています。 「『キミたち実は勝っていたよ』と2ヶ月後に試合結果を教えられても、ちっとも燃えない。3万人の団体戦では自分が貢献できたかも分からないが、10人のチームで毎月勝敗が分かると『やったあ』『残念だった』と社員が一喜一憂する。泣きも笑いもしない組織だったJALが、部門別採算で生きている会社になった」
これこそが「全員経営」の真骨頂です。 全員経営とは、役員や管理職だけでなく、一般社員や現場のスタッフに至るまで全員が経営に参加し、その力を最大限に活かせる環境を作ることです。社内に「チーム」と呼ばれる小さな小集団組織を数多く作り、全社共通の指標(一人時付加価値)を用いて、ゲーム感覚で採算向上へ挑戦させる。
自分たちの工夫が翌日の数字に直結し、チームの勝利として可視化される。この手応えと面白さがあったからこそ、現場リーダーたちは誰に指示されるでもなく、自発的に智恵を絞り、挑戦を続けるようになったのです。
「JALのような大企業だからできたのではないか」「特殊な業界の成功事例ではないか」と思われるかもしれません。しかし、全員経営と部門別採算の仕組みは、業種や規模を問わず極めて高い再現性を持っています。事実、森田は過去に製造業、卸・小売業、サービス業、そして医療・介護法人など600社以上の企業の導入に携わり、数々の劇的な業績改善を実現してきました。
今回の北里研究所での講演でも、この「再現性」に大きな関心が寄せられました。北里研究所のような日本を代表する高度な研究機関であっても、組織の発展と働く人々の幸せを両立させるためには、現場に即した適切な収支管理とリーダー育成が欠かせません。講演の中では、研究や臨床の現場においても「組織と会計を一致させること」「月次ベースで迅速に計画と実績を可視化すること」「収支管理をオープンにして全員で経営会議を行うこと」の重要性を提言させていただきました。
講演後の質疑応答の場では、ご参加いただいた多くの医師や研究者の皆様から、次々と手があがりました。専門職ならではの鋭い視点や、現場のマネジメントに直結するポイントを突いた質問が非常に多く寄せられ、会場は熱気に包まれました。研究や診療に強い誇りを持つプロフェッショナルだからこそ、自らの組織運営や数字の仕組みに対する関心が非常に高く、全員経営の考え方に強く共鳴していただけたことを確信いたしました。
経営の数字は、働く社員やスタッフの生活そのものと深く結びついています。 中小企業において現場リーダーを育て、組織を力強く活性化させるためのポイントは以下の4点に集約されます。
1. 組織をわかりやすくシンプルに分ける(営業、製造、管理など)
2. 実績日報を公開し、日々の成果を全員で追えるようにする
3. 全社統一のシンプルな採算表を作成する
4. 現場リーダーが主役となる階層別の経営会議を開催する
数字をオープンにし、頑張りが正しく評価される環境を整えること。それこそが、若手や現場の志の高いリーダーを急速に成長させる一番の近道なのです。
「全員経営」は、単なるコスト削減や業績向上のための管理手法ではありません。働く全社員に経営参加の機会と成長の実感を与え、夢と誇りを持って働ける環境を作るための仕組みです。
自社の現場リーダーに「経営者目線」を持ってほしい、指示待ちの組織から「全員が主体的に稼ぐ組織」へと脱皮したいとお考えの中小企業経営者の皆様。当社・NTMCでは、JAL再建をはじめ600社以上の現場改革を主導してきた代表・森田直行による講演・経営幹部向けセミナー・コンサルティングをご提供しております。
「自社でも講演や研修を実施してほしい」「部門別採算や全員経営の導入について詳しく聞いてみたい」という方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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